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これが現実!内標準補正法に使う内標準元素は何が良いのか?そもそも検量線法より良いのか?

内標準補正法は、多元素同時分析を行うことができる ICP-OES にとって有効な補正法の 1つです。サンプルに含まれる共存元素濃度(または粘性)が高いと、共存元素(または粘性)が含まれない標準液で作成した検量線では正しい定量値を得ることができません。この対策として、標準液にもサンプルと同じ濃度の共存元素を添加する方法(マトリックスマッチングなどと呼称しています)、または、標準添加法などがあります。マトリックスマッチングの場合、まずマトリックス濃度を調べ、測定対象元素を含まないマトリックスを準備しなければならず手間がかかります。粘性の違いがあった場合は、粘性を合わせる必要があります。標準添加法は優れた手法ですが、測定対象元素濃度に合わせて標準液を調製する必要があります。そのため、多元素同時分析を行うときは作業としては煩雑です。そこで内標準補正法がうまく機能すれば良いツールになる、というわけです。

内標準補正法は、共存元素による影響の補正と、粘性による影響の補正(送液や噴霧に関わる問題)を同時に補正しようとする手法です。
粘性の話は、それほど難しくないので今回は触れません。

今回は、サンプルにカルシウム(Ca)が多く含まれていた場合のカドミウム(Cd)と金(Au)、ロジウム(Rh)がどのような発光強度を示すかを実験データで示します。
もちろんプラズマ条件によって挙動は異なりますので、参考までの変化率と見てください。

この図は、横軸が Ca含有濃度、縦軸が Caを含まない Cd, Au, Rh 1 ppm を測定したときの強度を 100% として表現した相対強度です。Caマトリックス濃度が多いサンプルほど、同じ 1 ppm 溶液でも発光強度が低下していることが分かります。しかも、同じ Cd でも Cd 214.440 nm (イオン線:II) と Cd 228.802 nm (中性原子線:I) では挙動が違う(減感の度合いが大きく異なっている)ことが分かります。

一方で、Rh, Au も挙動が違いますが、Cd 214.440 nm (II) と Rh 233.477 nm (II)、Cd 228.802 nm (I) と Au 242.795 nm (I) は挙動が似ていることも分かります。
従いまして、Cd でも波長によって選択すべき内標準元素・波長が異なる、ということです。さらに、細かいことを言うと、Ca 10,000 ppm くらいになると Cd-Rh (II) は 5% ほど、Cd-Au (I) は 3% ほど乖離しています。完璧に一致はしていませんので、これらの元素・波長で補正した場合、定量値の誤差が生まれます。

内標準補正法は

  • 元素と波長によって選ぶべき内標準元素が異なる
  • 違う元素で補正するためその挙動差が定量値の誤差になる

という課題があると考えられます。

それでは、多元素同時分析を行う場合、単一の内標準元素/波長で多元素を補正できるのか?というと、難しいでしょう。少し残念ですが現実です。
ここで解決策として選択できるのは、

  • 最適な内標準元素を複数選択する
  • そもそも干渉を受けない工夫をする(第44回31回23回など)

というものです。私の興味は後者ですが、前者で悩む方も多いことから今回の記事にしています。

今回は内標準補正の現実について実際のデータから解説しました。
次回以降、どの元素にどの内標準元素が良さそう、というデータも提案していきたいと思っています。

 

参考記事はこちら:

 

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