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希釈する? そのままやっちゃう? フレーム原子吸光分析での高濃度域の測定

原子吸光分析法は検量線の直線範囲が狭い、というのはご存じかと思います。元素ごとに感度が異なるので、希釈倍率はサンプル濃度や測定元素によって様々…
面倒くさいなあ、高濃度のまま測定できないかなあ、夏はフレームの前が暑いなあ、と思っている方、多くいらっしゃると思います。

 

原子吸光分析法でも、意図的に感度を低下させて減感すれば、高濃度でも測定は可能です。そこで、減感によって分析結果にどのような影響が出るのか、下記に示す2つの簡単な方法でデータを比較してみました。

  • バーナーヘッドの角度を変える(光路長を短くする)
  • 波長を変える

 

下の写真はフレーム原子吸光分析装置PinAAcle 500のバーナー部分です。左が通常の状態、右が角度を変えたものです。
角度を変えると、ランプの光(オレンジ色の線)はバーナースロットに対して斜めに通過します。光路長(原子化が起こる部分)が短くなるので減感します。
また、波長によって感度やノイズ幅が異なるので、測定可能な波長が複数ある元素は感度の悪い波長を選択します。


写真1: バーナーヘッド

 

図1は、波長589nmでバーナーを通常の位置と角度を45度にした場合、波長330nmを用いた場合の検量線です。
検量線の傾きには大きな差がみられ、バーナーヘッドを45度にしたもの、波長330nmを使用した場合は減感していることがわかります。


図1:各条件での検量線

 

Na含有量の多い疑似生理食塩水、および飼料(認証物質LGC7173)を使用して、上記3つの条件でサンプル中に含まれるNaを定量しました。なお、飼料は塩酸抽出した溶液を使用しました。
測定にあたり、上記検量線の濃度範囲に収まるよう、試料溶液を希釈しました。
下表は、各測定条件での希釈倍率と回収率です。生理食塩水は10000倍もの希釈が必要でした。

表1:試料の希釈倍率
  通常 45 度 330 nm
生理食塩水 10000 200 200
飼料塩酸抽出液 100 5 5

 

表2:回収率(%)
  通常 45 度 330 nm
生理食塩水 97.2 98.7 99.5
飼料塩酸抽出液 96.1 101.1 101.8

 

どの条件も回収率は良好でした。
では、検出下限値はどのくらい違うのでしょうか。装置検出下限は、条件によって異なりました。

表3:装置検出下限(単位:mg/L)
  通常 45 度 330 nm
装置検出下限 0.001 0.008 0.24

 

ここで、注意しなければならないのは、高濃度まで測定できるからといって、検量線の直線範囲が広くなったわけではありません。あくまでも減感しているだけですので、検出下限値は高くなります。
実際の測定では希釈倍率を掛け合わせますので、試料中の濃度に換算すると表4のようになりました。

表4: 検出下限値(単位:mg/L)
  通常 45 度 330 nm
生理食塩水 12 2 47
飼料塩酸抽出液 2 1 24

 

感度が良い条件でも、希釈倍率によって試料濃度に換算した際に検出下限値が高くなることもあります。
サンプルのマトリックス、測定元素によって状況は変わります。回収率や必要としている検出下限値などから、最適な条件を見出してください。

 

ところで、
減感しても定量値への影響は小さいことがわかりましたが、装置の導入系の汚染が気になるところ…。

 


PinAAcle 500とフレームユニット

しかし、
PinAAcleシリーズ原子吸光分析装置のフレームユニットは、工具を使用せずにネブライザーやバーナーユニットの脱着が可能です。クリーニングも簡単ですので、メンテナンスの煩わしさを解消します。

 

最後に…
2023年のJASISでは、今回使用したPinAAcle 500を展示します。実際に触れて、「簡単」を体感しませんか? ブースでお待ちしております!

 

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