検量線の直線性と、検出下限値と定量下限値の間は定量できるのか?について考えてみた~ICP発光の場合~ | ICP-OESラボのあれこれ | 無機分析ラボの日々のあれこれ - PerkinElmer Japan

検量線の直線性と、検出下限値と定量下限値の間は定量できるのか?について考えてみた~ICP発光の場合~

検量線の直線が保てる範囲だったら定量ができるのか?直線性と検出下限値にはどのような関係があるのか?検出下限値と定量値のばらつきの関係について実験的に調べてみました。新型コロナウイルスの影響で思うように分析時間が確保できない日々が続いていますので、過去の実測データを掘り起こして記事を書いています。

検出下限値と定量下限値の算出方法は様々議論されていますが、今回は JIS K0116 に掲載されている装置検出下限値(ILOD)を使って考えます。装置は ICP発光分光分析装置 Avio500 を使いました。測定条件は、プラズマガス流量 10 L/min、補助ガス0.2 L/min、ネブライザーガス 0.55 L/min、RF出力 1500 W、サンプル流速 1.5 mL/min、同軸ネブライザー+サイクロンチャンバーというほぼ標準的な仕様です。
装置検出下限値は次式によって算出されます。

ILOD = 3 × ブランク10回連続測定によって得られる標準偏差 / 検量線の傾き

今回はこれを便宜上、LOD(3σ) と略記します。
定量下限値については、今回は標準液ブランクしか用意していませんので LOQ(10σ) とします。

鉛(Pb)標準液を 0, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10 µg/L 調製し検量線を作製しました。その後、ブランクを 10 回測定し、LOD(3σ) および LOQ(10σ) を算出しました。結果を Fig.1 に示します。検量線は 1 µg/L から直線にあることが目視できます。検出下限値前後でも良好な直線と言って良いと思いますよね。Fig.1 図内にはイメージしやすいように LOD(3σ) と LOQ(10σ) のおおよその位置を記載しています。
ここで、この直線性の保たれている LOD(3σ) と LOQ(10σ) の間は定量できるのか?という疑問が出てきます。直線性の保てている範囲なら定量できるよ、という話を聞いたことはありませんか?(私は定量できると思っています。“定量”の定義によりますが・・・。)


Fig.1 Pb の検量線の疑問


次に、各測定点における RSD をプロットしてみました。Fig.2 に示すように、LOD 付近では RSD が大きく、RSD 10% を下回るのは 5 µg/L よりも高い濃度であることが確認されました。LOD(3σ) と LOQ(10σ) の間は測定 RSD が大きくなりがちのようです。(これでも私は定量できると諦めません。)


Fig.2 測定濃度におけるRSDの変化

 

さらに、各測定濃度における定量値が、その平均値からどれくらい乖離しているかを調べた図を Fig.3 に示します。これは n=3 測定のうちそれぞれをプロットしています。検量線 (Fig.1) は 1 µg/L から直線上にありますが、これはあくまでこのばらついている測定データの平均値でしかない、ということが分かります。測定平均値から測定値が 10 % 以上乖離してしまう濃度は、やはり 5 µg/L 付近が閾値ようです。(平均値が定量値として当たってるなら、それはそれでいいのではないか?とも思います。)


Fig.3 各測定濃度平均値に対する乖離度合い

 

今回の実験では、LOQ(10σ) である 6.5 µg/L 付近では、RSD も 10 % 以下、定量値のばらつき乖離も 10 % 以下になりました。
つまり、LOD(3σ) と LOQ(10σ) の間は、検量線も引けるし定量もある程度できるものの、ばらつきが大きい濃度域ですよ、ということが実験的に確認されました。

結論として、LOD(3σ) と LOQ(10σ) の間は定量ができるのか?という疑問について、微量域だから ±50 % くらいの誤差は OK、という分析目的であれば、検出下限値以上の感度があればそこそこ大丈夫でしょう。しかし、きちんとした再現性のある定量値を出すには、定量下限値以上の濃度であることが必要のようですね。

もちろん、検出下限値と定量下限値に関する議論は、著名な先生方が報告されている解説記事や論文等を参考にしていただいて、このブログデータは実際の一例であるとお考えいただければいいかなと思います。※ばらつきを評価していますので、測定条件によっては異なる結果になりますのでご注意ください。ICP 質量分析装置 NexION でもやってみたいですね。

 

当初は、検量線の測定点数は何個あればいいのか?どれくらいの濃度の測定点があればいいのか? 5 ppb を測定するときはそれを包括するような検量線を引くべきなのか?ということも書こうかと思っていましたが、ちょっと長くなりましたので、今回はここまでとします。(リクエストがあれば書いてみたいと思いますが。)

 

下記の記事も合わせて読んでいただけると、参考になると思います。
第4回:ICP-OES検出下限の計算方法(2016/6/15)
第15回:検量線の範囲や測定点数に決まりはあるのか? (2018/3/15)

 

 

 

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