短時間で良いスペクトルを得るための測定条件(2) 分解能 | FTIR Blog - PerkinElmer Japan

短時間で良いスペクトルを得るための測定条件(2) 分解能

今回は波数分解能を取り上げます。このエントリでは波数分解能とは何か、分解能の測定条件をどう決めるか、測定条件を決める時の注意点についてご説明します。

■波数分解能とは

波数分解能は、スペクトル上で隣り合う二つのピークを分離する能力を示す指標です。なのでスペクトル分解能と言うこともあります。波数分解能の単位は波数と同じく [cm-1] で表します。波数分解能を上げると数値は小さくなります。ここからは波数分解能を単に『分解能』と言う事にします。

 

■分解能の設定値の目安

分解能の設定値の目安は固体 4〜8 cm-1, 液体 〜4 cm-1, 気体 ~2 cm-1です。この設定値は測定物質のピークの半値幅から判断します。半値幅が狭いほど高分解能の測定が必要です。例えばメタンは気体なので、高分解能での測定が必要です。高分解能(0.5 cm-1)と低分解能(4 cm-1)で測定したデータを比較しました。スペクトル上にプロットした・は実データ点です。


図1 メタンの吸収スペクトル

 

高分解能の測定は十分にピークの分離ができていますが、低分解能の測定結果は隣り合うピークの重なりがあり、十分に分離できていません。また、低分解能の測定は、ピークの高さが著しく低くなっています。気体は高い分解能での測定が必要です。

次に、メタンと同じ測定条件で固体のポリスチレンフィルムを測定しました。


図2 ポリスチレンの吸収スペクトル 

 

どちらの分解能でもスペクトルの形状はほぼ同じとなりました。ただし、測定時間は高分解能が約8倍長くなります。スペクトルの質と測定時間のバランスを考慮すると、ポリスチレンの分解能の設定条件は 4 cm-1 が適しています。

■分解能と測定時間の関係

分解能を上げると測定時間は長くなります。分解能の高さは干渉計の中の移動鏡が移動する距離の長さで決まるためです。

干渉計や移動鏡とは何でしょうか。干渉計はFTIRの心臓部とも言うべき最も重要なユニットで、名の通り光源からの赤外光を干渉させる役割を持ちます。干渉計は光源からの赤外光を 2 本に分割するビームスプリッタと 2 枚の鏡で構成されています。2 枚の鏡の内 1 枚が光軸に対して水平に移動できるようになっています。移動できる鏡を移動鏡、移動できない鏡を固定鏡と呼びます。2 枚の鏡とビームスプリッタの間の距離が同じ場合、光路差 0 となります。移動鏡が動くと移動した分に応じて光路差が発生します。

今、光源から赤外光が出たとしましょう。赤外光はビームスプリッタで 2 本に分かれます。そのうち 1 本が固定鏡へ向かい、もう 1 本が移動鏡へと向かいます。固定鏡と移動鏡で 180° 反射した光はビームスプリッタに戻り、1 つの光に再合成されます。この時、固定鏡と移動鏡の光路差に応じて光が強めあったり弱めあったりすることで干渉が発生する、というわけです。


図3 干渉計の構成と仕組み

 

こうして出てきた干渉光は、検出器で検出されます。この時、移動鏡を移動させている間ずっと検出器で干渉光を検出し続けます。そうすると横軸が光路差、縦軸がエネルギー強度のグラフが得られます。このグラフをインターフェログラムと呼びます。


図4 インターフェログラムのイメージ

次にインターフェログラムにいくつかの補正を加えた後、インターフェログラムをフーリエ変換する事で、横軸波数のスペクトルに変換します。
フーリエ変換の性質上、変換前のデータ点数が2倍になると変換後に2倍密集したデータ点が得られます。つまり分解能が 2 倍高くなるというわけです。これが光路長を長くすると分解能が高くなる理由です。

■分解能とS/Nの関係

分解能を上げることのデメリットは、測定時間以外にもう一つあります。S/Nの低下です。
分解能を上げると、その分だけ干渉光を絞り、ビームの中心付近の光を使用する必要があります。干渉光のうち光軸に対して斜めに進む光が分解能を下げるためです。斜めに進む光をカットするため、ビームの周辺部をマスキングする目的でアパーチャと呼ばれる絞りが使われます。つまり、分解能を上げると、絞りを小さくした分だけ検出器に届く赤外光のエネルギー強度が下がるのでSN比が低下します。

■まとめ

分解能を上げるとピークの分離を良くする反面、測定時間とSN比が犠牲になります。適切な値を設定しましょう。

次回は波数範囲について書く予定です。お楽しみに!

 

 

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