ヘッドスペースサンプラー(HS)を用いた分析のコツ-その2- | クロマト分析 日々のQ&A - PerkinElmer Japan

ヘッドスペースサンプラー(HS)を用いた分析のコツ-その2-

 前回のブログでは、ヘッドスペースサンプラー(HS)を用いた定量分析の方法とコツについてお話ししました。今回は、HSを用いた分析のコツ-その2-として効率よく成分を検出する方法や、HSの注入時間についてお話しします。

 

効率よく成分を検出するには?

 目的の成分を効率よく検出したい・・・そんなことを考えたことはありませんか?ヘッドスペースで定量分析を行う際は、【分配係数】を考慮することも重要になってきます。分配係数を利用した分析例を見てみましょう。

 図1 は、10 ppm のジクロロメタン (DCM) を測定したクロマトグラムです。


図1. 前処理方法の異なるジクロロメタン(DCM) 10 ppm のクロマトグラム

上段;<液体オートサンプラー使用>エタノールで希釈した DCM
中段;<HS使用>エタノールで希釈した DCM
下段;<HS使用>エタノールで希釈した試料に水を添加した DCM

 

 クロマトグラムを見れば、一目瞭然ですね。エタノールで希釈した DCM よりも、エタノールで希釈した試料に水を添加した DCM の方がピーク面積がより大きくなっています。
 このように、分配係数を考慮することで目的成分を効率的に検出することが出来ます。

 次に、溶媒をシリコーンオイル、DMF、ベンジルアルコール、DMSO、水とした時の例をご紹介します。各種溶媒に含まれる成分(メタノール、エタノール、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン)について、同一濃度、同条件で測定した際に検出されたピーク面積を比較したグラフを図2 に示します。


図2. 各種溶媒中に含まれる各成分のピーク面積

 

 例えば、メタノールのピーク面積に注目してみましょう。シリコーンオイル中では 70 程度、水中では 10 以下です。一方、ヘキサンに注目すると、シリコーンオイル中では 15 程度、水中では 120 です。このように、同じ濃度の成分が含まれていても、どのような溶媒に含まれているかによって検出されるピーク面積が大きく異なることがわかります。
 分配係数の違いにより得られるピーク面積は異なります。よって、特に定量分析を行う際には、サンプル作製に使用する溶媒を全て同じにする必要があります。例えば、定量分析を行う際に未知試料が水溶液の状態であるならば、その検量線用の標準試料を作製する時には、水溶液にする必要があるということです。
 この時に異なる溶媒で作製してしまうと、図2に示したように溶媒の種類によって分配係数が異なるため、検出されるピーク面積に違いが出てしまい、精確な定量値が得られません。試料を測定する際には注意して下さいね。

 

注入時間とピーク面積

 ヘッドスペース分析のパラメータの一つに【注入時間】があります。この注入時間、どのように設定されていますか?
 GC への導入量 [mL] は、式➀で計算でき、注入時間に比例することがわかります。

 

導入量[mL]=注入時間[min]×キャリアガス流量[mL/min]・・・・・➀

 

 ということは、注入時間を長くすればするほど、導入量が増える=ピーク面積が大きくなる!と考えますね。確かにその通りなのですが、注入時間がある時間を超えると、高濃度成分(主成分)のピークは飽和してしまいます。
 でも、低濃度の成分を検出したいので、長い注入時間=導入量で分析したい・・・という時もありますよね。そんな時は 2 パターンの注入時間で分析をしてみましょう!!


図3. 注入時間 0.15 min (上段)と 0.50 min (下段)のクロマトグラム

 

 上段は、注入時間 0.15 min で測定したクロマトグラムです。もう少し導入量を増やすと、検出されそうな小さいピークが複数確認できます。そこで、注入時間 0.5 min に長くして測定したクロマトグラムが下段です。主成分は飽和していますが、0.15 min では見えていなかった成分が検出されています。
 主成分(高濃度成分)は短い注入時間で、微量成分(低濃度成分)は長い注入時間とし、同じ試料を 2 回分析することで、濃度に差異のある成分でも感度良く検出することが出来ました。

 

分析は【急がば回れ】です。一つずつ、確実に分析を行い精確なデータを得るようにしたいですね。

次回は、ヘッドスペースサンプラーにトラップ機能を付加したサンプラーである「トラップサンプラー」についてご紹介いたします。お楽しみに!

 

 

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