JIS K 7123の比熱測定って何に気を付けるの?熱流束編その2@解決編 | 熱分析屋さんのつぶやき - PerkinElmer Japan

JIS K 7123の比熱測定って何に気を付けるの?熱流束編その2@解決編

ずいぶん日が延びてきました、日は延びてもすぐには暑くならない。地球規模で見ると、地球自体の熱容量の影響(熱容量って言葉だとちょっと間違ってますけど)ってすごいですね。だとすると、地球温暖化はなかなか進まない気がしてきます。熱容量がうまく使えたら温暖化対策になりそうな気もします。
さて、いろいろな個人的都合で“解決編”の更新遅れていました。が、素知らぬふりして比熱容量測定の続きです。
前回、熱流束DSCのプログラム設定や測定で気を付ける点、書いてあります。 待ちくたびれて忘れた方はこちらから。

データは取れたものの何故か比熱容量がずれている...そんなときに筆者が比熱容量解析で確認しているポイント記載しておきます。少しは参考になるといいのですが。いやきっと参考になると信じておきます。

さて、比熱容量測定ができたとき図1みたいなデータが取れます。
図1では9 mgと33 mgのサファイアを使っているので、サファイアのデータが一本多いですが、気にせずに。説明用なので温度範囲が少し足りませんが、これも気にしないでください。


図1. 比熱容量測定のDSC、ブランク(赤線)、サファイア9 mg(茶線)、 サファイア33 mg(青線)、サンプル(緑線)

 

こんな感じで測定終了すると、いかにも比熱容量測定完了しました、みたいな感じになっちゃいます。でも...実際に解析してみると図2の様に数値が違う、ってことになります。高さをあわせればOKということは、33mgのサファイアが正しいってことになるんですが、筆者の場合、なぜこんなことが起きているか、もう少し詳しくみています。


図2. サファイア33 mgで比熱容量解析した結果(黒線)と サファイア9 mgで比熱容量解析した結果(赤線)

 


図3. 図2の昇温直後部分拡大、サファイア33 mgで比熱容量解析した結果(黒線)と
サファイア9 mgで比熱容量解析した結果(赤線)

 

図3の黒線の青丸部分と赤線の黄丸部分で一定勾配を示すまでの横幅に差がでています。熱流束DSCってサンプルとリファレンスの温度差を定量化する装置なので安定時間が一定にならないと誤差が大きくなります。


図4. a) サファイアの熱流の微分(紫線)、b) サファイアの熱流(紫線)c) サンプル(33mg)の熱流の微分(青線)、
d) サンプル(33mg)の熱流(青線)
、e) サファイア(9mg)の熱流の微分(黒線)、
f) サファイア(9mg)の熱流(黒線)、g) 空パンの熱流の微分(赤線)、h) 空パンの熱流(赤線)

 

こんなときは、微分を使って...図4bのサンプルと図4dの高さ位置をあわせ、と、微分で熱流の安定ズレを見ちゃいます。サファイアでも試料量が異なると横軸時間にしたときの茶色波線の丸印部分で、9 mg(図4e)と33 mgの微分(図4c)が安定するまでの時間が大きく違うのがわかります。これが熱流束DSCの比熱容量解析で結果がうまく出ない原因です。熱流束DSCで比熱容量解析したときは昇温初期の高さと横方向の微分カーブのズレを確認するといいです、と思っています。

熱流束DSCで比熱容量を求めるときには

  1. 横軸時間にして微分熱流を確認する
  2. サンプルとサファイアの熱流の高さ(図4bと図4d)をおおよそ合わせる
  3. サンプルとサファイアの微分熱流(図4aと図4c)が安定するまでの時間が異ならない様にサンプルやサファイアの試料量を調整する

を実施しています。結果の高さだけを気にしてしまいがちですが、横方向のズレを気にすると比熱の精度が格段に上がります。


図5. サファイアのCp文献値(黒マーク)と熱流束DSCで得たCp(青線)

 

念のため、図5にサファイアを熱流束DSCで手順を踏んで正確に測定した結果を載せておきます。文献値<3 %以内に入ってくれます。もちろん、サンプルの場合も同じ様な“感じ”ですが、使用した熱流束DSCのメーカーによって少し癖がでます。

で、結局のところ、DSCで比熱容量の測定をした場合には、

  1. 比熱容量の結果だけを鵜呑みにしない
  2. ブランク、サファイア、サンプルの測定結果を見る
  3. 微分を確認する
  4. サファイアの比熱容量の結果を文献値と比較する
  5. サファイアの結果から試料の誤差範囲を理解しておく

というとても曖昧な結論になってしまいます。
熱流束DSCでは微分で時間方向安定を確認した測定がしっかりできていれば、サファイアの比熱容量誤差と同等なサンプルの結果が得られているってことですね。逆の場合、サファイアの比熱容量とずれるかも、です。今回は、微分で確認しましょう、以外は最後まで曖昧に。
このあたりの確認方法は次回か次々回で載せますので。

長くなっちゃいました。比熱容量測定がわかるとDSCがわかるって言われるくらいの内容なので今回“も”大目に見てください。

 

では、次回の“JIS K 7123の比熱測定って何に気を付けるの?入力補償DSC編”でお会いしましょう。

 

 

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