Disease Research, Imaging, Innovation Spotlight, Life Sciences

世界中で7.5億人近くの人々はなんらかの慢性腎疾患(CKD)に冒されています。 疾患の主な原因は高血圧と糖尿病で、慢性腎疾患(CKD)により毎年何百万人もの人々が死亡しています。この中には、長い期間厳しい食事制限や透析療法、移植などの医療行為を受けていた百万人の子供たちも含まれています。これに対しての治療法はありませんでしたが、研究者たちは治療法に一歩近づけたかもしれません。1
新治療法の特定
慢性腎疾患(CKD)はどのような恒常性の変異によってもたらされるものなのか、もしくは誰にも共通して有する現象が顕在化したことによるものなのか? 米国テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターとドイツ ゲッチンゲン大学医療センターをベースとする研究者によって構成された研究チームはEMT(上皮間葉転換)を制御する二つのメカニズムをコントロールすることが慢性腎疾患(CKD)や繊維化症を伴うがん疾患の新しい治療法の開発への鍵となると考えました。2
上皮間葉転換(=上皮間葉移行、[英]Epithelial-Mesenchymal Transition /or Transformation, EMT)とは、上皮細胞がその細胞極性や周囲細胞との細胞接着機能を失い、遊走、浸潤能を得ることで遊走細胞及び侵入細胞を含む間葉系様の細胞へと変化するプロセスのことです。このプロセスは創傷治癒や、がん転移の初期または腎臓線維症を含む臓器線維症の初期段階で起こることが知られています。つまり、腎臓線維化症の発症原因は腎臓の損傷と腎臓の再生不全により細胞外結合組織が過剰に形成され蓄積されることによるものと考えられています。 この過度組織は瘢痕化の原因となり透析、腎臓移植などの治療を必要とする末期の腎不全に至り、場合によっては生命の維持をも左右する重篤な結果を引き起こすこともあります。3
何を行ったか
テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターの研究チームは、慢性腎疾患(CKD)の治療開発におけるEMT(上皮間葉転換)の影響を調査するため、これらの疾患において変異が認められた遺伝子について、過剰発現またはノックアウト・ダウンしたマウスを作製し、腎臓線維症におけるEMT(上皮間葉転換)の促進と抑制のプロセスを制御するモデル系を研究に供することができるようになりました。Opal™ Multicolor Immunohistochemistry (IHC) リサーチキットを使用して、上流および下流で調整を受けたされたさまざまなサンプルを染色し、Vectra™ 自動マルチスペクトル組織切片定量解析システムで解析を行いました。この装置はハイスループットバイオマーカーの定量的な画像解析や、免疫組織化学の共局在化の研究に使用される最先端で信頼できる装置として組織化学研究領域において認知度を高めてきています。4 疾患モデルマウスの病変組織から作成した標本から5種類のランダムな領域を其々のマウスから選択し解析する手法を採用することができたことにより MDアンダーソンの研究グループは顕著な研究の進捗を見ました。特許技術の独自アルゴリズムによる特定の組織のセグメンテーションと検知を自動的に行う inForm™ Tissue 定量解析ソフトを使用して、YFP (黄色蛍光タンパク質)陽性上皮細胞が確認されました。またEMT(上皮間葉転換)においては発現が低下する水チャンネル単パンク質なども含め、少量の膜たんぱく質が存在することが定量的に示されました。5
実験モデル動物からからヒトの疾患治療へ
ヒトの腎臓の生検組織に立ち返ってみると、MDアンダーソンの研究者達はサンプル内のEMT(上皮間葉転換)に関連する遺伝子が通常の腎臓の細胞と腎臓線維腫のものと同じであるか探索し、結果としては、解析対象として選択した患者において、解析対象とした上皮細胞のタンパク質は、腎臓線維腫からのサンプルにおける過剰な発現が認められました。 一方、血管上皮細胞の細胞株は線維化症の細胞株と同様の安定した誘導を見せていることを証明しました。研究者達がさらなる研究の必要性を説いており、冒頭の結果が腎臓の損傷がEMT(上皮間葉転換)を誘導し、それは最終的には上皮細胞の損傷につながることを示唆しています。事実、腎不全は「生体の損傷と防御反応の繰り返しによる悪循環が、慢性線維症に至る結果で起こる」と研究者達は考えています。同様に重要なのは、チームの研究者が発見した事実で「将来、EMT(上皮間葉転換)の過程が腎臓線維種の柔組織機能を守る新治療法のターゲットとなりうる」ことにあります。6
報告はされませんでしたが、テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターでは研究、方法論とパーキンエルマー社のVectra® 自動マルチスペクトル組織切片定量解析システムが用いられております。Vectraが提供する高品位の組織細胞の画像が、癌の進行過程研究を含む、すべての人間組織内におけるEMT(上皮間葉転換)の研究に素晴らしい影響を及ぼすと認識されています。また、腎臓線維種とそれに伴う疾患の治療法へ大きな前進を果たしています。
こちらの装置は研究目的のみの使用となっております。臨床検査にお使いにはならないでください。
References
- Anon., “Chronic Kidney Disease,” World Kidney Day.
- Yossi Ovadya and Valery Krizhanovsky, “A New Twist In Kidney Fibrosis,” Nature Medicine, Vol. 21, pp. 975–977, 2015.
- Wilhelm Kriz, Brigitte Kaissling, and Michel Le Hir, “Epithelial-Mesenchymal Transition (EMT) In Kidney Fibrosis: Fact Or Fantasy?” The Journal of Clinical Investigation, February 1, 2011. See also Sara Lovisa, et. al. “Epithelial-To-Mesenchymal Transition Induces Cell Cycle Arrest And Parenchymal Damage In Renal Fibrosis,” Nature Medicine, Volume 21, pp. 998–1009, August 2015.
- Wei Huang, Kenneth Hennrick, Sally Drew, “A Colorful Future Of Quantitative Pathology: Validation Of Vectra Technology Using Chromogenic Multiplexed Immunohistochemistry And Prostate Tissue Microarrays,” Human Pathology, Volume 44, Issue 1, January 2013, pp. 29–38.
- Lovisa, et. al., op. cit.
- Ibid.