TA FAQ一覧 - PerkinElmer Japan

FAQ -熱分析-

Q1. DSCやTGAの制御および解析ソフトウェアは日本語ですか? またLANには対応していますか?

日本語版と英語版があります。OSはWindows XP operating systemです。もちろんLANにも対応しており、DSCやTGA制御用PC以外のLAN上のPCへのデータ転送、それらのPCでのデータ解析も可能です。

 

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Q2. DSC7を使用しています。最新のWindows上で作動するソフトウェアおよびPCへのアップグレードは出来るのでしょうか? また可能な場合、その費用はどの程度なのでしょうか?

可能です。費用に関してはご使用のPCおよびインターフェース (TAC7)により異なりますので、弊社のサービス部にお尋ねください。ただし、DSC7は15年以上前に製造中止になり、試料ホルダーは現在も供給していますが、インターフェースであるTAC7シリーズのボード類の製造も同様に終了していますので、在庫がある限りとなります。今後のサポートを考えますと、Diamond DSCに買い換えられることをお勧めいたします。その場合、下取りとしての価格的配慮をさせていただきます。

 

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Q3. DSCのサンプリング時に注意すべき点があったら教えてください。

まずサンプリング時には試料と試料容器との密着性を良くすること、そして試料自体の温度分布を小さくすることが重要です。また測定に用いる試料パンの底面は出来るだけ平らにし、炉体底面(センサー部)に密着するようにすることです。

たとえばフィルム状の試料はパンチで打ち抜き、それをクリンプしてください。融解させても良い試料(熱履歴を無視できる試料)はプレヒーティングし、 一度融解させた後で密着性を高めてください。粉体は容器底面での粒度分布が均一になるように調整してください。クリンプ後はピンセットの背の部分などで上面を押し付け、試料を試料パンに出来る限り密着させるとともに、底面が平らになるようにします。液体試料はサンプリング後の容器を傾けたりしないよう注意し、時間を置かずにすぐ分析してください。その他、試料の性状や性質によって注意すべきことがたくさんあります。

またDSCの測定原理に基づく留意点があります。試料パンの種類や試料の詰め方によって熱抵抗が変わってきます。入力補償DSCの場合は熱抵抗が変わればピークの傾きは変わってきますが、ΔHの値は熱抵抗依存性がほとんどありませんので、試料パンや試料の詰め方の違いによるΔHの変動はほとんどありません。しかし熱流束DSCの場合、ΔHは熱抵抗によって変化します(ΔT= R・Q)ので、試料の詰め方には細心の注意を払う必要性があります。

 

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Q4. 熱流束DSCと入力補償DSCの測定目的における選択基準を教えてください。

下記に例を示します。

  1. 試料の転移開始温度を計測したい。
    装置の温度校正を正確にすれば双方とも正確度と再現性には問題はありません。熱流束 DSC の熱電対の正確度は入力補償 DSC の白金抵抗温度計より多少劣りますが、大きな差はありません。ただし原理上、熱流束 DSC における融解ピークの終点はベースラインに戻ったところではありません。

  2. 試料の熱量を測りたい。
    ピーク面積は熱抵抗によって変わります。この熱抵抗は温度や詰め方の依存性がありますので、熱流束 DSC の熱量正確度は高くありません(現にほとんどの熱流束 DSC の仕様には正確度はうたっていないことからもわかります)。再現性も熱抵抗に依存するので同様です。

  3. 急速な( 100 ℃ / 分以上)冷却をしたい。
    ファーネスの熱容量が大きい熱流束 DSC では不可能です。

  4. 試料を均一かつ同一質量にて試料容器に詰められる試料を測定する。
    熱抵抗が一定になるので双方とも問題ありませんが、熱流束 DSC は熱量校正を試料と同じもので行うことが望ましくなります(熱量既知試料の入手ができなければ実際は不可能です)。

  5. 複数の転移がある。
    転移温度が離れていれば双方とも問題ありませんが、液晶など複数の転移がほぼ同じ温度領域で生じる測定や医薬品試料に多い結晶多形現象の測定には、分解能の高い入力補償 DSC を推奨します。

  6. 生産性を向上したい。
    昇・降温速度、装置校正作業の内容を考えると双方には雲泥の差があります。熱流束 DSC では走査速度を速くできないため、測定時間や冷却時間が長くなり、生産性は向上しません。

 

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Q5. DSCにおいて試料に転移があるのかないのか良くわからない試料があります。何か測定にノウハウがあれば教えてください。

まず、転移温度があらかじめわかっている場合、転移温度よりも 20 ~ 30 ℃程度低い温度から測定をします。微小な転移であるとすれば、次に述べることをヒントにしてください。

  1. 試料と容器の密着性を上げる工夫をする。

  2. 試料量を多くする。(しかし、分解能は悪くなります。)

  3. 走査速度を大きくする。(しかし、分離能は悪くなります。)

  4. 測定温度範囲を広くする。

  5. 試料パンを熱抵抗の小さなものと変更する。

  6. ヘリウム雰囲気で測定する。

  7. 加熱、冷却、加熱のサイクルで測定する。冷却においては急冷を試みる。

  8. ベースラインを確認する。必要に応じてブランクラン測定をする。

  9. TMA や DMA で測定をする。他の物理量からアプローチを行なう。

特に未知の試料においては、昇温することによってガス等の発生がないことを TG や TG/DTA などで確認することが先決ですが、通常言われている 10 ~ 20 ℃ / 分の走査で得られたデータを「そのまま」信じてしまう可能性があります。この程度の走査速度では見逃してしまう(データ上に現れない)転移もよくありますので、 100 ℃ / 分以上の走査で測定してみることも転移を見逃さない秘訣であり重要です。そのためにも DSC は 100 ℃ / 分以上の速度でコントロール昇温できる装置が望ましいといえます。

 

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Q6. 研究開発部門にDSCを導入する予定です。現在、 DSCには2つの方式がありますが、R&Dに関してどちらの方式のDSCを選定すれば良いのでしょうか?

入力補償DSCを選定すれば間違いありません。パーキンエルマー社では、入力補償DSCをハイグレードなDSCと位置付け、主に研究開発分野に推奨しています。DSCには異なる原理に基づく、二つのDSC(入力補償DSCと熱流束DSC)があります。 弊社では両方式のDSCを製造、販売しています。入力補償DSCである”Diamond DSC”は感度、分解能、ノイズ特性に優れていることはもちろんのこと、 さらに測定される熱量、温度の正確さ、および精度ともに抜群の性能を示します。またメンテナンスにも優れていますので、ルーチン分析にも適している万能タイプといえます。 これは試料ホルダーにプラチナイリジウム合金を採用しており、30年ほど前に販売されたモデル”DSC2”も現役で 活躍していることからも耐久性に優れていることが証明されています。 したがって入力補償DSCは発表以来、世界を代表する大学、研究機関および企業はもとより工場などのルーチン測定用装置としても採用され、分野や業務内容に問わず欠かせない分析装置となっています。

 

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Q7. 入力補償DSCの特長である高速加熱・冷却の利点を教えてください。

入力補償 DSC は試料ホルダーの熱容量が非常に小さいために、冷却用冷媒とパージガスの種類によって異なりますが、加熱・冷却速度ともに「 500 ℃ / 分」での制御が可能です。高速加熱・冷却が分析にもたらす利点は高感度測定が可能であることと、プラスチックや薬の製剤などの製造時におけるシミュレーションが DSC セル内で可能であるという点です。 高感度測定において、 DSC の出力である熱流(単位時間における入力エネルギー量の差; Heat Flow )は、加熱・冷却速度と試料量と試料の比熱容量の積になります( Q=m ・ Cp ・ dT/dt )。つまり加熱・冷却速度を大きくすれば DSC シグナルはそれに比例して出力されます。したがって高速な加熱・冷却を行なうことで高感度な測定が行えます。
製造時のシミュレーションにも高速加熱・冷却は非常に有効です。たとえばプラスチック成形加工において熱可塑性樹脂を成形する場合、等温結晶化測定は成形条件の検討、把握などに必須ですし、 -170 ~ 725 ℃の温度範囲 0.01 ~ 500 ℃ / 分の速度で測定できることは容易に成形加工プロセスをトレースできます。 。

 

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Q8. 高分子の結晶化機構を解析したいのですが、等温結晶化測定ができるDSCとはどのタイプのDSCでしょうか?

等温結晶化測定には入力補償 DSC を選択してください。等温結晶化測定は熱的応答の速い(高速制御昇降温が可能な)入力補償 DSC を用いなければ非常に難しい測定法です。高分子は溶融状態にし、急速に冷却をすると熱的ゆらぎによって生じた高分子鎖の凝集体や不純物を核として結晶化が起こります。 DSC 内で完全に試料を溶融させ、設定した結晶化温度へ急速に冷却を行い、 DSC が等温制御に入った時間を零時間とし、結晶化による発熱を時間と共に測定します。結晶化温度を変化させて測定を行うことにより迅速に結晶化速度が測定できます。たとえば熱可塑性樹脂について測定を行うことで成形加工条件の確立および核剤や強化材等の添加の影響を調べることができます。ソフトウェアのヘルプファイルには、詳細に測定法を明記しております。その中で紹介している DSC 結果を図 1 、 2 に示します。また速度論的解析もオプションソフトウェアで可能です。高分子材料の結晶化機構およびその高次構造制御は非常に興味ある現象であり、多くの研究が実行されています。

一方、熱流束 DSC はファーネス自身が大きな熱容量を持つために熱的応答が速くありません。高速制御昇降温が不可能なのです。したがって、試料が目的結晶化温度までの降温中に結晶化してしまうことがあります。また、最大の欠点として、熱流束 DSC は原理上、試料の温度を計測しているだけですので、試料の転移時に試料側ファーネス温度を一定にできず、「真の等温測定」はできません。

ポリエチレンテレフタレートの等温結晶化測定
図1 ポリエチレンテレフタレートの等温結晶化測定 (ヘルプファイルからコピー)

 

105~120℃におけるポリエチレンテレフタレートの等温結晶DSC曲線
図2 105~120℃におけるポリエチレンテレフタレートの等温結晶DSC曲線

 

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Q9. DSCを用いて熱特性を研究しています。400℃付近まで測定しますので、装置の温度や熱量校正に亜鉛を使用しようと考えています。 その場合に注意すべき事があれば教えてください。

亜鉛をアルミニウム製試料パン(試料容器)に詰めて校正を行う場合、注意が必要です。 亜鉛は融解するとアルミニウムと合金を作ります。一度使ったその試料容器を繰り返し使用しますと、融解温度は下がるとともに融解熱も合金としての熱量になるため正確な校正ができません。したがって亜鉛を使っての装置校正時は、校正毎に試料を作成してください。

 

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Q10. 配向性のある試料を熱天秤で測定すると、溶解後、試料容器内で偏りができ重心の位置が変化するため(モーメントの問題)、 正確な測定、特に再現性が得られません。どのようにしたら良いでしょうか?

水平方式の熱重量測定装置 (Thermogavimetric Analyzer;TG) を使用されていると思います。対処方法としては試料を不活性な低質量のディスク等に挟んだり、アルミナなどの不活性な物質と混合するくらいしかありませんが、あらたに熱伝導度の問題と試料内温度分布が生じますので、勧められる方法ではありません。したがって、試料パン内のどの位置に試料を置いてもその質量が一点にかかり、天秤の機構において重心(モーメント)が変化しない吊り下げ方式の TG ( Pyris 1 TGA) を使用することをお奨めします。
現在市販されている TG には吊り下げ方式、上皿方式、水平方式の 3 つに分類されますが、特に水平方式では、再現性はサンプリングに大きく依存し、試料容器内に置く試料の位置の偏りに加えて試料容器を置く位置のずれも含み、支点からの試料までの距離が変わりやすい要因を含みます。上皿式も水平方式と同様に試料を置く位置によって重心(モーメント)が変化しにくくはなっていますが、吊り下げ方式ほどではありません。

 

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Q11. 天秤の測定方式の違いによる特長を教えてください。

市販の熱天秤には吊り下げ方式、上皿方式、水平方式があります。下記にその特長を記します。

  1. 吊り下げ方式

    いわゆるバランス天秤。天秤系質量を小さくできるので、感度が最も高い天秤です。試料は直径が 0.3mm 以下の不活性なワイヤーでつるされています。また試料皿のどこの位置に試料を置いてもその全質量は一点にかかるので再現性も秀でており、再現性と微小質量変化を求めるのが目的であればこの方式が優れています。

  2. 上皿方式

    試料皿を支えなくてはならないので天秤系質量は大きくなります。したがって感度は吊り下げ方式より相当劣りますが、試料皿のどこの位置に試料を置いてもその全質量はほぼ一点にかかりますので、比較的再現性には優れます。試料の装着は最も楽な方式です。

  3. 水平方式

    試料皿を支えなくてはならないので、天秤系質量は大きくなります。したがって上皿方式同様、感度は吊り下げ測定方式よりも劣ります。しかも、試料容器に置く試料の位置によってモーメントが変わってくるので、試料位置、測定中の試料形状変化が再現性に大きく影響します。ただし上皿方式もそうですが、 DTA を同時測定できる装置設計が簡単にできる利点もあります。

 

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注:Windows は米国 Microsoft Corporation の米国およびその他の国における登録商標です。