DSCってピークを見る装置じゃないの? | 熱分析屋さんのつぶやき - PerkinElmer Japan

DSCってピークを見る装置じゃないの?

衣替えの季節ですね。暑さのピークはずいぶん前に終わったと思ったら寒くなり、秋の眠さのピークがやってきたと感じていながらも約束通り連続で更新している、さぼり癖のついた熱分析屋さんのつぶやき筆者です。季節と眠さのピークの関係が測れたら面白いかもしれませんね、ものすごく鋭いピークが観察されそうな気配が。

さてさて、今日も相変わらずTG-DTAやDSCでインジウム測定しています。DTAやDSCでは融解ピークが見えて判断がとても楽。最近はこのピークでDSCとDTAの違いの話を聞くことが少なくなりました。転移温度も出ますし、定量DTAであれば熱量も出せます。DTAより低温測定できて、DTAより感度が高いのがDSCといった感じみたいです。このあたりを説明すると話が長くなるので教科書でも割愛してDTAとDSCが同じような感じでしか書かれてないのかもしれません。

今日はタイトルの”ピーク”ではなくってベースラインとブランクの話ですけど、実は同じ内容です、念のため...

熱分析のブランクとベースライン、同じように考えられているみたいです。実際には違っていて、簡単にいうとブランクは装置の状態、で、ベースラインは試料由来の単調変化部分、を指します。
一番わかりやすいTMAだとこんな感じです。

ラボの除湿機
図1)エポキシのTMA測定結果のガラス転移とベースライン

図1のTMAのガラス転移の前後(20˚Cから100˚Cまで、と、140˚Cから200˚Cまで)を比較すると、それぞれ伸びが63μm / 80˚C(= 0.7875μm / K)と243μm / 60˚C(= 4.05μm / K)でおおよそ5倍の膨張で単調増加部分(ベースライン)が異なるのがわかります。赤線で表示してある20˚Cから100˚Cまでと140˚Cから200˚Cまで、これが図1のTMAのベースラインです。 ちなみにブランクはこんな感じです。

 

水の融解測定、密閉容器
図2)TMAのエポキシ(青線)の結果とブランクデータ(赤線)

ほとんど0の赤い線がブランクです。青線もほとんどフラットに見えますが、変化した分だけ表示するのがTMAなので実際には図1の様な結果と同じです。
青い線から赤い線を差し引くと実際のサンプルの結果になります。TMAは膨張率(初期長さからの伸びを比率で示したもの: %)、膨張係数(長さ変化率を温度で割ったもの:/Kまたは /˚C)を求められます。

DSCの場合だと何故か水平で真っ直ぐなベースラインでなければ、って方も多いです。

 

水の融解測定、密閉容器
図3)DSCの高分子の結果(赤線と青線)とブランク(茶線)

どうしてもDSCの図3の赤線のピークと全体の湾曲だけ気にしてしまいますが、筆者はあまり気にしません。DSCの一番のポイントは等温から昇温に変わった直後のベースラインシフトの量(波線○部分)なんです。

熱流束DSCではサンプル量だけでなく、リファレンス量(たとえばα-アルミナ)を調整して、ブランクのベースラインシフトが見えない様にするDTAの手法も多いです。サンプル、リファレンスそれぞれが同じ昇温速度なるように熱容量を調整するんですね、これは。

実際には入力補償DSCでは試料量から空パンの熱容量を差し引いて縦軸を熱容量(W/g)で解析します。なので、DSCは非平衡な熱容量を解析する手法なんですよね。DSC測定中に融解など比熱異常が観察されることがあって、これが融解ピークとして観察されます。図3の青線が熱容量を使った解析方法です。青線だと、ベースラインがはっきりわかりますね。

実はDSCは熱容量→比熱異常の順、DTAは昇温異常の解析で同じ様な結果でも大きな違いがあるんです。

DSCの図3では70˚Cにガラス転移、110˚Cと140˚Cに冷結晶化、170˚Cに融解が観察できます。DSCなので、熱容量からベースラインを読むと楽になります。

筆者の場合、
一般的なDSC測定のリファレンスは空パン(α-アルミナなし)でベースラインは熱容量から解析します。
レアケースは「等温結晶化」測定で結晶化が速くヒートショックを消す必要のあるときに限って、リファレンスにアルミニウムやα-アルミナを使うときくらいです。

DTAの場合には、いつもα-アルミナと言いたいところですが、パーキンエルマーのTG-DTAではリファレンスがないものもあるので、リファレンスが必要な場合はアルミナを使います。ちなみにα-アルミナの量は、サンプルポリマーで1.5倍の質量、無機物で等倍にすると熱容量が大きくずれることはありません。

 

なんか今回は少し難しい話になってしまいました。

では、次回の“JIS K 7123の比熱測定って何に気を付けるの?”でお会いしましょう。

 

 

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