水って難しい | 熱分析屋さんのつぶやき - PerkinElmer Japan

水って難しい

さぼり癖のついた熱分析屋さんのつぶやき筆者です。JASIS 2017、今年もパーキンエルマーは参加しました。みなさんにこのブログコーナーの更新が遅いとお叱りを受けました。こんなに読んでいただけているとは...ありがとうございます&ごめんなさい。お詫びも兼ねてさぼった分に近いくらい連続で更新にトライします。
その前に、「熱分析研究懇談会 第1回熱分析討論会」(2018年1月18日)の紹介しておきますね。第1回なので、気軽に参加できる機会だと思います。熱分析に限らず横断的な分析の話が聞けるようになるのではないかと...希望的観測と主観を交えながら。

さて、水の話。
熱分析で水の分析となると、まず思いつくのがDSCらしいです。というか、いつからか覚えてませんけど、熱分析=DSCなんですよね、なぜか。DSCは“もの”自体が変わらないので、とっても解析しやすい技法の一つだからでしょうか。

前回、水自体の測定のことを少し書きました。今回はもう少し実際のデータを使いますね。DSCで硫酸銅五水和物に添加した水を測定するとこんな感じです。

ラボの除湿機
図1 水を添加した硫酸銅五水和物のDSC
水なのに融解は0℃以下の-10℃くらいから開始して、ピークは一つではないですよね。もちろん前回の“温度が違う その2“の注意をした上で測定しています。自由水と結合水、束縛水だったり、いろいろな呼び方します。こういったピーク、DSCだけで解析するのはとっても大変。

 

筆者の場合、水の熱分析となると、最初に思いつくのはTGなんです。 百聞は一見に然り...例えば、硫酸銅五水和物に水を添加した場合の脱水をTGで測定するとこんな感じです。

水の融解測定、密閉容器
図2 硫酸銅五水和物と水の混合物の可変昇温TGでの脱水挙動

最初の43%が添加した水、その後の11.0%, 6.2%, 3.8%が硫酸銅五水和物自体の脱水です。
ちなみに硫酸銅五水和物単体の可変昇温TGと等速昇温TGだとこんな感じになります。

 

水の融解測定、密閉容器
図3 硫酸銅五水和物の等速昇温TG(赤)とその微分(青)、温度可変昇温TG(緑)の結果。

 

等速昇温TGだと減量率を分離しにくいですね。可変昇温TGがあれば緑線の様に簡単ですけど、そんな測定できないって方も多いと思います。TGの減量率の解析では、TG曲線をそのまま減量率解析すると、人によって誤差がでます。
こんな時にはTGの微分(青線)の面積を減量率として使うと、解析しやすいです。

もちろん、ベースラインが見えないと使えませんが。初段14.6%、次に13.3%で簡単に分離できます。その後に6.8%の減量ですね。人の主観が入りにくいので、お奨めです。ただし、ベースラインが見えるデータに限ることに気を付けてください。TGそのものとTGの微分の減量率がほぼ一緒なら解析大丈夫です。硫酸銅五水和物(Mw=249.69)から水がすべて抜けたとわかります。

分離するなら可変昇温TG(図の緑線:JISでは温度可変TG全般をダイナミックTG)で測定がお奨めです。可変昇温TGだと減量の数が増えてしまいますけど。実際には可変昇温TG測定には少々考えなければならないことが...このあたり、福岡で開催される第53回熱測定討論会で発表を予定しています。

ちなみに...
図1~3を使うと、添加した水の融解熱152 J/gと水の融解熱340 J/g(いろいろありますが)の比率からすべての水が凍ったわけではないことがわかります。添加した水の量と硫酸銅五水和物の理論値から考えると実際DSCでは3.8%くらい、図2のTGの70℃以上の減量率と添加量の比率を計算した理論値から1.8%位外れます。DSCとTGの差2%の水をどう考えるか、がとっても楽しいのですが、長くなるので今回はここまでで。
もし考え方や計算方法など詳しく知りたい場合には、追加開催するかもしれない熱分析基礎セミナーで質問してみてください。今回追加した基礎セミナーにはまだ空きがあるみたいです.

 

では次回の“DSCってピークを見る装置じゃないの?”でお会いしましょう。

 

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