降温と昇温の違いは?その2 | 熱分析屋さんのつぶやき - PerkinElmer Japan

降温と昇温の違いは?その2

師も走る師走です。みなさん、健康のために走っていますか?外は寒いですけど走り始めると暑くなって、走り終わるとしばらく暑いままですね。たまにサーモグラフィーで体温の上がっていく様子と下がっていく様子を色の変化で上がりやすさ、下がりにくさを説明しているTV番組があります。これってふと考えると色で示しただけの熱分析です。色で見るとわかりやすいのに熱分析だと熱容量とかいろいろと難しく考えちゃいますね。何故か...
というわけで今日は温度の上がるとき、下がるときをどうやってみているかの” 降温と昇温の違いは?その2”で、データの解析の話です。その2がそのうちあると言いつつ“その2”がない、“やるやる詐欺”になっていましたので、このつぶやき初の“その2”です。

さて、“繰り返し測定の意味って”の回で融解とか結晶化とかガラス転移で繰り返し測定するといいことを書きました。とはいったものの実際に解析するのが大変ですね。
実はみなさんからの問い合わせで最も多いのがDSCの結果をどうやって解析するか、です。
ちゃんとした測定ができていれば、ある程度までなら結構簡単にできちゃいます。“ちゃんとした測定”、これが難しいのですが、この話をしていると卵と鶏になってしまうので、今年のつぶやき最後の更新の今回は解析の部分で一気に話を進めてしまいましょう。今日はそのうち“その3”とか言いませんので。年を越さないように...

さて今日は筆者の解析方法の一例を示します。
図はPETボトルを切り出して、三次昇温まで測定した結果です。たとえばこのPET、融解だけ解析しようとすると実は簡単な様でいて、融解だけ見て解析するのは難しいし、厄介なんです。
図を見ると一見普通の解析だし、何も問題ないですよね。多くの場合、この結果の温度(234 ℃、236 ℃で融解)や熱量(37 J/gとか45 J/g)だけ出回るみたいですが、これってちょっと危険です。どんな解析されているかわかりませんから。熱分析屋さんは、というと皆さん含まれてしまって怒られるので、少なくとも筆者の場合はこんな見方をしています。融解を解析するには冷却過程を最初に確認します。


(図) PETボトルを10 ℃/minで3次昇温まで測定したDSC結果、赤:PETを切り出したサンプル(一次昇温)、緑:50 ℃/minで冷却した後の昇温結果(二次昇温)、青:10 ℃/minで冷却した後の昇温結果(三次昇温)です。他の回で見たことのあるデータですけど。

 

冷却過程をみると10 ℃/min冷却(黒線)の170 ℃付近と50 ℃/min冷却(赤線)の160 ℃付近に発熱ピークが見えます。この発熱は10 ℃/min冷却でも50 ℃/min冷却でも観察されています。発熱量は37 J/gと2 J/gですから、昇温過程ではこれと同じ熱量の融解が観察されるはずですけど、実際には冷却10 ℃/minと50 ℃/minの昇温過程は両方とも37 J/g。
これ昇温時の融解は室温の試料そのものの結晶の状態ではなく、試料が昇温中に再結晶化(冷結晶化とも呼ばれる)して室温とは結晶が変わってしまっているんです。


(図) 冷却過程のDSC結果で10 ℃/minの冷却(黒)と50 ℃/minの冷却(赤)です。160~170 ℃位に発熱ピークがあります。

 

こんなときは昇温部分を拡大しちゃいます。図は昇温の拡大ですけど、150 ℃くらいのところに10 ˚C/min冷却後の昇温(青線)と50 ℃/min冷却後の昇温(緑線)に発熱が見えませんか?
そんなことはわかっているって言われちゃいそうですけど...
実際に結晶化しないと融解できませんから、冷却の発熱と冷結晶化の発熱を足すと融解の吸熱ピークの熱量になります。


(図)昇温の拡大、赤:PETを切り出したサンプル(一次昇温)、緑:50 ℃/minで冷却した後の昇温結果(二次昇温)、青:10 ℃/minで冷却した後の昇温結果(三次昇温)です。

 

ここでちょっと考えると、おかしなことに気が付きます。
“冷却10 ℃/minと50 ℃/minの昇温過程は両方とも37 J/g”でしたし、冷却過程の“発熱量は37 /gと2 J/g”でした。なのに10 ℃/min冷却の昇温過程には結晶化のピークが見える。つまり、10 ℃/min冷却試料の昇温の冷結晶化の分のエネルギーがどこかに消えてしまったことになります。これは解析が間違っていることを意味していて、融解のベースラインか、冷却の結晶化か、昇温の冷結晶化の解析のどれかが間違っていることを意味します。今回のデータは融解と結晶化の解析温度範囲が適切でなく、もう10 ℃/min冷却も50 ℃/min冷却の融解も少し低温(180 ℃くらい)から解析するべきでした。初期の試料も180 ℃くらいから。
そうすると、すべて42 J/gの融解になって、すべて一緒になります。それだけではなくて、結晶化の合計が42 J/gになるという、いかにも作ったのではないかって結果になります。でもこれが実際の結果なのです...
ついでに...70 ℃位の動きはガラス転移です。冷却過程でも昇温過程でも同じベースラインシフト幅を示します。


(図) 冷却過程のDSC結果で10 ℃/minの冷却(黒)と50 ℃/minの冷却(赤)です。70 ℃位にベースラインシフトがあります。

 

このあたり、不定期開催の熱分析セミナーでさらに詳しく説明しています。セミナーはいつも数日で満員になってしまうので、パーキンエルマーのメルマガは要注意です。

ということで、
ちょっと問題はありますが、熱分析では融解=結晶化(冷却の発熱 + 昇温の発熱)は同じになると考えると楽に判断できます。ですから昇温、降温の結果をうまく使うといいと思います。

今年最後のつぶやきでした。来年も軽いノリでつぶやきますので、“熱分析屋さんのつぶやき”宜しくお願いします。
ではみなさん、よいお年を。

 

次回は新年の“ガラス転移ってピークになるの?”でお会いしましょう。

 

 

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